Thurs. カトレア

        献歌 原田洋子様   カトレアのつぼむ温室かの夫とはぐくむならん黄泉のはなばな


        

彼女の訃報を知って、1夜が過ぎました。
ダブルヨーコと名乗って妹のように世話をしてくださるのがいつものスタイルです。
若かった時は結婚披露宴の祝辞を指名してくれ、最近は弔辞を代読(本稿はご自身で清書するというユーモアをふりまいて)する役目を仰せつかりました。
けれどもどちらも叶いませんでした。
わたしたちはだから二人だけの結婚式と葬祭を秘蔵することになりました。
あなたはいつでも美しい人で、花見にお誘いした最後のランチはウィグのアフターサービスの予約の日でした。ファンデーションののりを褒めると心底うれしそうです。
茶道に培われた書や花、菓子、食事、着物、道具などの目利きはどれも玄人の域を極めて刺激的でした。6月の私たちの結婚披露宴でお召しになったろうの涼しげなうす蒼色の着物は、着付けといい所作といいぴったりでした
玲子さんと3人の旅でお茶の作法を伝授していただいて、おしとやかなホテルの夕餉の日もありました。
50歳での結婚はうつくしいあなたにやわらかな解放感が加わって完璧でした。きっちりと20年間家庭生活を満喫してご主人を介護することも輝いた日々だったと拝察いたします。
すべて手に入れたあなたに、母の日の花を日比谷花壇から届けてもらうのがわたしのささやかな喜びですが、それも長くは続きません。
それは、わたしの子供たちやミッションスクールの後輩の姉にまで配慮してくださることへのお礼です。すると早速電話が入りますが、喜び上手はこちらを巻き込んでたのしい会話がはずみます。
ああ日本列島縦断を往復した数々の旅の道中で、しっかりとお別れができたようでもありますが、そうでもない虚ろさがあります。
ランチのためのローンのブラウスはどういたしましょう? 似合いそうなお好みのピンクの花模様のそれは、退院したら送るようにとの指図でした。おそろいですのよ。 合掌